大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和45年(行ツ)88号 判決

上告人 寺江ヨネ ほか六名

被上告人 京都府知事 ほか三名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人有井茂次の上告理由第一点ないし第三点および同羽渕節子の上告理由二について。

所論の点に関する原判決の認定判断は、挙示の証拠に照らし、肯認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨判断を非難するか、原判決の認定しない事実を前提として判例違反を主張するものであつて、採用することができない。

上告代理人有井茂次の上告理由第四点について。

原判決および記録を精査するも、原判決に所論の違法は見当たらない。論旨は採用することができない。

上告代理人羽渕節子の上告理由一について。

論旨は、要するに、農地法施行法二条一項一号の規定に基づく買収令書の交付により自作農創設特別措置法九条一項但書の規定に基づく買収令書の交付に代わる公告の瑕疵の補正を是認しうるのは、瑕疵のある公告の存在を認識してその補正をするための単なる事務手続的なものとしてなされた場合に限定されるべきところ、買収令書の交付、これに代わる公告の不存在を前提としてなされ、それらに存した瑕疵の補正を意図しないでなされた買収令書の交付による補正を認めた原審の判断は、最高裁判所の判例に違反するものであるというのである。

しかし、原審の認定するところによれば、「控訴人京都府知事において買収令書を発行し、……郵便に付して送付する手続をとつたが、被控訴人から同令書添付の受領証の返還がないなど、同人に令書交付がなされたことが明らかにできなかつたため、知事は昭和二六年二月一三日、自創法九条一項但書に基づき、令書の交付に代える公告をした」というのである。したがつて、論旨は原審の認定と異なる事実を前提とする判例違反の主張として排斥を免れない。そして、また、かりに、最初の令書の交付に代わる公告に瑕疵があつたとしても、右公告が買収計画の承認後遅滞なく行なわれ、かつ、これが有効であることを前提として、同法による売渡により買受人に当該農地の所有権が移転したものとして処理され、表見的であるにしても、同法の目的が達せられたものと認められるような法律関係が形成されている場合には、右公告の瑕疵を補正する意味で行なわれた買収令書の交付の効力は肯認されるべきであつて、右令書の交付が著しく遅滞して行なわれたという一事をもつて、それによる公告の瑕疵の補正の効果を否定し、右のような一連の手続をすべて無効に帰せしめるようなことは許されないと解すべきところ(最高裁判所昭和三三年(オ)第三〇八号同三六年三月三日第二小法廷判決、裁判集民事四九号三一頁、同昭和三八年(オ)第一一〇九号同四〇年五月二八日第二小法廷判決、裁判集民事七九号二二三頁参照)、再度の買収令書の交付は、もともと、買収手続の効力を維持するためになされるものであり、客観的に補正の効力を生じうべき要件を具備するかぎり、その補正は許されるべきであつて、かりに、原審の認定判示するように、右公告の措置がとつてあつたことを失念していたとしても、そもそも、行政庁が公告の瑕疵を補正する意図を有するか否かは被買収者になんらの得失をもたらすものではないから、行政庁において、瑕疵のある公告の存在を認識してその瑕疵を補正する意図のもとに右令書の交付をしたか否かによつて、その補正の許否につき別異に解釈すべき理由はない。したがつて、右と同趣旨に出た原審の判断は正当として是認すべきである。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 関根小郷)

上告代理人の上告理由〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例